1月20日Vol.154
社員インタビュー
第1話_大木俊明さん(環境課)

タンニン鞣しに魅了されて

栃木レザーとは、思いがけないの出会いだった。それは、愛用していた財布が壊れてしまったことに始まる。長く使うものだから、いいものを購入したいと、革について調べはじめると、クロム鞣しとタンニン鞣しがあることを知った。

ネットで調べては店歩きをして、これぞと思う財布をようやく入手。栃木レザーの革ではないけれど、タンニン鞣しの希少性に魅了されていた。

一方で、仕事を続けることに迷っていた頃でもあった。大学卒業後に就職した埼玉の印刷会社で、刷版の仕事を手がけて約8年。24時間、回りっぱなしの印刷機と、昼も夜も向きあう毎日。ワンオペ勤務で働き続けたせいか、すっかり一人になれてしまった。人間関係の軋轢こそないけれど、体力的にも、精神的にもだんだんきつくなり、転職を考えていた。

ハローワークに出向き、転職先を探していると、偶然にも「栃木レザー」という社名を目にする。財布の買い換えで革を色々調べていたから、その社名は覚えていた。覚えていたどころか、タンニン鞣しの伝統的な工法を今でもやっている会社であることに関心を持っていた。

「これ、もしかしたら転職のいいタイミングなのかも」

善は急げですぐに応募し、工場を見学させてもらった。前職も有機溶剤の匂いの中で仕事をしていたので、動物の独特な匂いも気にならず、やってみたいと思った。

「環境部で排水関係の仕事をやってみない?」と面接時にすすめられ、受け入れた。埼玉から栃木に引っ越して、1人暮らしもはじまった。

1月21日Vol.155
社員インタビュー
第2話_大木俊明さん(環境課)

血液を流す腎臓機能

皮を鞣すのに欠かせない水。その工程で大量に使用される水を、高度な処理で自然に還す。それが、環境課の役割。

そんな環境の仕事は大きく分けて2つある。1つは水の管理。工場から流れてくる廃水を、微生物に食べさせる。例えば1課の工程で出る、皮についていた体毛や皮脂の固形物を蒸気で煮込んで溶かしたもの。一昔前は、油を分離させて再利用されていたが、今はきれいにして川に流している。その微生物が生きている水槽の酸素量や、循環する水の量を調整し、廃水がそのまま流れないようにする。

2つ目は、工場内の廃棄物の回収と分別で、まとめた廃棄物を産廃業者に持って行く。さらに、汚水を綺麗にした後、ヘドロのような汚泥(おでい)というものが出る。それを絞り、残った絞りカスを乾燥させる。それは定期的に回収してもらい、あとで肥料として活かされる。

自分は、後者の廃棄物の回収と分別がメイン。会社のために何ができるか、といった余裕はまだなく、自分ができることをやるだけでいっぱいいっぱい。

でもこうして仕事ができるのは、自分にすべてを引き継ぎ、退職された上司のおかげ。教え方が上手で、当時、環境について深く考えていたことが伝わってきた。自分で考え、調べて、何でも1人でやりくりして解決してきたと言う。難しい面もあったけど、職人気質というか、完璧主義な人だった。

上司が退職した後、一通りの流れを理解しているのは自分しかいなく、当初は不安だらけだった。この仕事は裏方だけど、工場を人間の身体に例えれば腎臓かな。体内の血液が常にスムーズに流れるようにしなくてはいけない。血管が詰まればすぐに命の危険が迫ってくる。だから、血液を浄化する腎臓の役割と同じなのかも知れない。

1月22日Vol.156
社員インタビュー
第3話_大木俊明さん(環境課)

環境課の役割を知ってほしい

排水場では、日々、色んなものが流れてくる。誤って流してしまったものは、すべてネットにひっかかる。現場で使ってるプラスチックのタグみたいなやつとか。ちょっと気になるのは、煙草の吸い殻が流れてくること(苦笑)。

この仕事をしていて思うことは、栃木レザーの革づくりにとって必要不可欠な環境の仕事ではあるものの、その存在は社内であまり知られていないこと。

1課は排水との関わりが大きいので、清水課長など、何人かの人が頻繁に排水浄化設備まで足を運んでくれる。

「こういうのを流したけど、排水の状況はどうかな」って。

流せるモノ、流せないモノなど規制をつくれば簡単かもしれないけど、現場は生産に必要なものを使い、それがゴミとなって排水されるわけだから、無理に制限して生産の品質に影響が出てしまったら逆効果になってしまう。そこが難しいところなのかなと。

本音を言えば、もう少し排水の量を下げてくれた方が処理はしやすくなるけど、 それはこちらの都合でもある。品質に影響が出ないところで、排水処理が適切に行えるといい。

まずは、社内の人に排水場を見に来てほしい。それだけでも意味があるのでは。設備の上にあがってどんなふうに排水されているのか、それを見てもらえれば、使用する水に対する意識も少し変わるのではないかな。

使う側も処理のことを想像し、処理する側も使う側のことを想像し、双方が折り合うところで、適切な水の量や、処理が進められれば、それが一番、ベストだと思う。

1月23日Vol.157
社員インタビュー
第4話_大木俊明さん(環境課)

残していきたいこと

どんなにデジタル中心の世界になっても、ものを生み出す第一歩は、人間であり、職人の技術からはじまるものだと思う。

この栃木レザーも、タンニン鞣しの革という分野で、職人の雇用を生み、若い世代に技術を伝承し、これまで培ってきた伝統技術を絶やさないようにしている。

その革でつくられたものを手に取った人が、生み出された背景を知る機会に触れたりする。自分が財布の買い換えをきっかけに、タンニン鞣しの革の存在を知り、栃木レザーを知ったように。

そして、築いてきた技術や伝統を受け継ぐだけではなく、新たな取り組みを試みないと生き残れない。引き継ぐということも簡単なことではないと思う。

今、栃木レザーの技術の伝承は、ほとんど口伝だけど、やはり文書化したものがあるといいな、と感じる。自分は以前の印刷会社時代、マニュアルや手順書をつくる仕事もしていたので、その経験をいかして、栃木レザーの技術を活字で残すようなことができたら・・・。

環境課の仕事はある程度できたとしても、生産の方は、感覚的なことが多いだろうから、活字で残すのは難しいのかも。だから、つくられてこなかったのだろうし、それがなくても成り立っている現実がある。

でも、今はよくても、この先も職人の頭に入ってることを全部、次の世代に伝えられるかっていうと、どこかで途切れてしまう。途切れる前に、バックアップでいいから、用意しておいた方がいいのでは。そこに挑戦してみたい。

1月24日Vol.158
社員インタビュー
第5話_大木俊明さん(環境課)

嗜好品を求めるのは、理屈ではない

タンニン鞣しといえば栃木レザー。
そう名前が出てくるくらいの唯一無二の価値は、働くものにとってもすごく誇れることだと。だからこそ、このものづくりを残していくことに、自分も何か役に立ちたい。

革って嗜好品で、生活必需品ではない。だから、なくても生きていける。財布だって、時計だって、スマホ一つあればすべての役割を担ってくれる時代だ。仮にスマホじゃなくて革の財布を持ちたいと思ってくれたとしても、やっぱりクロムに持っていかれちゃうのでは、という不安もある。

そんななかで、どうすればタンニン鞣しの革が、嗜好品としてこの先も長く愛されるものになるのだろう。このものづくりに携わる人間として、そこが一番気になっている。

そんな自分の望みは、栃木レザーが1日でも長く続いてくれること。だって、ここがなくなってしまったら、日本のタンニン鞣しがなくなってしまうのと同じこと。そしたらイタリアの革ばかりになる。

会社として生き残るというよりも、日本の革づくり文化を背負っているように感じている。やっぱ、そこに惹かれたのかな。

今思えば、元々印刷会社に入ったのも、製造というか、ものづくりに興味があったから。なかでも、手作りが好き。技術を持つことって、自分の人生が豊かになることじゃないかな。

趣向品もそう。なくても生きていけるけど、生活必需品ばかりでは人生面白くない。無駄かもしれないけど、理窟ではなく、心を動かされるのが嗜好品なのかな。